鎌倉なんみん共生フォーラムの試み

難民を受け入れる地域モデルの構築を目指して

難民と地域住民が出会い、友になることからはじまる 地域連携のかたち

 日本で唯一のコミュニティ型難民シェルター「アルぺなんみんセンター」(以下、センター)が神奈川県鎌倉市で難民支援事業を開始したのは2020年4月。ちょうどコロナ禍が始まり、入管施設からの仮放免者が増え始めた頃だった。当時はコロナ禍により、地域住民にセンターの存在を認知してもらうことが難しい状況ではあったが、オンラインから始まり、徐々に実会場での 「難民セミナー」を地域の施設や、小学校から大学までの学校の授業で実施していくことで、地域の人々がシェルターに入居する難民の存在を知り、直接的につながることができた。

 地域のゲストハウスや飲食店を会場にして企画した「なんみんカフェ」は、スリランカ難民のつくるミルクティーやカレー、ミャンマー難民による麺料理などを紹介し、地域の人々が料理を通して難民について関心を持つきっかけとなった。また、「アースデイ鎌倉」や「かまくら国際交流フェスティバル」など地域のイベントに参画することで、センターでのボランティアの参加や地域に向けた広報が促進された。

 鎌倉市内すべての公立小中学校に、「わたしは、なんみんです。かまくらでくらしています。」という啓発ポスターを配布、掲示を依頼し、若い世代に難民の存在をもっと身近に感じてもらうことに努めた。結果、そのポスターを見た生徒の発案で、学校内での難民との交流プログラムが企画されるなどの展開がみられた。地域の学童プログラムやこども食堂にも難民が参加しており、日ごろ街中で声をかけ合うような関係性もできてきた。

 センターでは毎週土曜日、施設内の畑作業に地域の小学生や住民が参加し、交流の場となっている。また月に1、2回シェルターを施設見学のため公開する「オープンデー」は、毎回予約の段階で満席の状態であり、地域の住民や市民団体の方々の関心の高さがうかがえる。地域住民と難民の直接的な出会いは、地域住民の「難民とはどんな人かわからないから、なんとなく怖い」とか「難民問題と自分とは関係がない」という当初の意識を、「もっと友達になりたい」、「自分に何かできることはあるか」、「この状況をなんとかしたい」という意識へと大きく変化させている。

支援のしくみをどう構築するか

 こうした地域住民の難民との出会いと関わりは、難民の置かれている状況を知り、実際に「地域として難民に対しどのような支援ができるか」という問いにつながってゆく。現在センターのシェルターに入居している難民たち(5カ国12人、2023年6月現在)のほとんどは仮放免の状態であるが、仮放免者がシェルターを出て自立していくための最も大きな障壁のひとつは「就労の禁止」だといえるだろう。どのような状況であれ、就労できなければ、衣食住を自らの手で賄うことはほぼ不可能に近い。

 このような状況の中、鎌倉市社会福祉協議会に相談したところ、「就労はできないがボランティア、または職業訓練ということであれば社会福祉施設とつなげることができる」との返答を得た。地域の社会福祉法人によるデイケアセンターとつながり、ミャンマーとインドネシア出身の入居者が週に2日、ボランティアとして関わることになった。人手不足が深刻な介護の現場において、彼女たちの存在は施設利用者や職員からも大変喜ばれた。ミャンマー出身のミミさんは大変努力家で、ボランティアをしながら隣町の藤沢市で介護について学び、「初任者研修」の資格を取得することができた。その後、2022年3月に在留許可が下りると4月にはボランティアで通っていたその施設に就職、5月にはシェルターを出て施設の社員寮に入り、自立を果たすことができた。それから1年たった現在、在留資格による就労時間の制限もなくなり、楽しく充実した生活を過ごしている。

 このミミさんのような自立への道が、他の仮放免の方々の解決モデルにはならないだろうか。難民認定者数があまりにも少ないこの国で、難民認定を待ち続けることは、特に現在の入管法改悪の流れの中では現実的な策とは言い難い。命が脅かされ、迫害の危険があるなど、何らかの理由で母国に帰国できない人々が、就労できる在留資格をなんとか取得し生計を建てていくこと、そのための受け皿やしくみを地域が作ることがいま、早急に求められていると思われる。特に介護施設など人材不足の現場において、難民が貢献できることは多いだろう。

地方行政との連携の枠組みを形成しながら

 このような取り組みの中で、鎌倉市議会とつながり、同市議会が「難民政策の見直し(2021年7月)」および「ミャンマー国軍の民衆弾圧の即時停止(2022年10月)」について国に意見書を提出したことは、地方行政との連携の意味でも大きな前進となった。鎌倉市の「地方通貨クルッポ」の企画を通して、センターが「クルッポアワード2021 SDGs部門賞」を鎌倉市長から受賞(2022年1月)するなど、市との連携も深まっている。さらに、2022年11月に第27回神奈川県弁護士会人権賞を受賞したことで、社会的な認知度がさらに高まった。

 連携の環境が整備されるのと同時に、市への政策面でのアプローチも進められている。市議の働きかけにより、UNHCR(国連高等弁務官事務所)駐日主席副代表のナッケン鯉都氏がセンターを訪問後、鎌倉市長と会談し(2023年3月24日)、2018年に国連で採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」の精神に基づいた、社会全体による難民支援としての「難民を支える自治体ネットワーク」に、鎌倉市長が参画の意志を表明した。今後の他の自治体やコミュニティにとっても重要なロールモデルとなることが期待されている。

 さらに2023年4月には神奈川県、公益財団法人かながわ国際交流財団、センターの3者間で、「ウクライナ避難民支援に関する連携協定」を締結し、具体的な支援活動における県との連携関係も確立された。

地域における多様なセクターの連携が変化の主体となる

 このように地方行政との連携枠組みを整備しつつ、地域の市民グループ、社会福祉協議会、福祉施設、市会議員、企業、メディア、警察など様々なセクターが一堂に集まり、地域における難民支援について学びあい、具体的な行動において連携をめざすネットワーク「鎌倉なんみん共生フォーラム」の設立が2021年11月に呼びかけられた。第1回会合では、カナダ独自の難民受け入れスキーム「プライベートスポンサーシップ」を事例として、世界における地域の取り組みについて学んだ。第2回(2022年11月)では日本の難民受け入れ40年の歴史と難民条約について学び、参加者間で活発な意見の交換が行われた。

 市民グループ代表の方からは、「仮放免の方に対して生活の便宜をはかるかにあたり、条例が必要。仮放免は出入国在留管理庁の裁量で決められているが、鎌倉市が条例を作り、仮放免者に対する独自のルールを作れないか。市議会に諮っていただき何かできないか検討したい」という提案があった。入管によって規定されている就労や県外への移動の禁止、医療保障無しという状況を「条例」によって変えていくという案である。

 就労について「難民条約」に基づけば、仮放免者に企業などあらゆる雇用が認められているわけではないが、自営業は可能とされている。自営は地域の経済を活発化させるという観点からだという。難民条約によれば、移動は自由である。また難民条約では、緊急医療を公的な負担により保護することを保障している。この難民条約を根拠に、工夫しながらできることはあると考えられる。

 「国が動かないときに、グローバルスタンダードで自治体が動いていく」という意識を共有しながら、地域の様々なセクターの連携により、特に仮放免の立場の人々の直面している困難を突破していきたい。その方法論やしくみを 「鎌倉なんみん共生モデル」のような地域モデルとして形成しながら、地域による難民の受け入れが全国的に展開されていくこと願っている。

NPO法人アルペなんみんセンター
地域連携コーディネーター 漆原 比呂志

移住者と連帯する全国ネットワーク情報誌「Mネット」No.228 / 2023年6月号より転載