神奈川県弁護士会人権賞を受賞しました!

アルペなんみんセンターが、第27回神奈川県弁護士会人権賞を受賞いたしました。活動にご支援、ご協力いただきました皆様と共に、この受賞を喜びたいと思います。

第27回神奈川県弁護士会人権賞について(神奈川県弁護士会ホームページ)

神奈川県弁護士会人権賞 表彰状

NPO法人アルペなんみんセンター殿

貴団体は 令和2年の設立以来 母国における迫害を逃れ精神的にも経済的にも疲弊した難民申請者に対して スタッフ常駐のもと安心して共同生活を送ることができるシェルターを提供するとともに 難民認定を受けた後にスムーズに我が国及び地域社会に溶け込むことができるよう 我が国の文化体験を提供 地域社会との連携及び地域住民との積極的な交流を図るなど 神奈川県内はもちろん日本国内でも類を見ない 難民申請者一人一人に寄り添った支援活動に取り組まれています

このような難民認定後の自立にまで配慮した手厚い支援に取り組んでいる貴団体の活動は 我が国における難民の基本的人権の保護のうえで極めて重要であり 本会としても貴団体の活動が今後さらに発展されることを切に望んでやみません

よって本会はここに第27回神奈川県弁護士会人権賞を贈り表彰します

令和4年11月3日
神奈川県弁護士会
会長 高岡俊之

神奈川県弁護士会人権賞 受賞スピーチ

ただいまご紹介いただきましたNPO法人アルペなんみんセンターの事務局長、有川憲治と申します。

この度は、神奈川県弁護士会人権賞をいただき、心よりお礼申し上げます。

設立してまだ3年目の団体である私たちが、このような栄誉ある賞をいただき、大きな喜びとともに、身が引き締まる思いです。

アルペなんみんセンターは、2020年4月から、鎌倉の緑豊かな山の上にある、カトリック教会のイエズス会の施設をお借りし、難民のシェルターとして活動をはじめました。

活動を始めた当初は、コロナ禍もあり、ひっそりと、数名たらずの難民申請者と、コーヒー片手におしゃべりしながら過ごす日々でした。よく、「アルペにはリスとタヌキと有川さんしかいない」といわれました。

そこから2年半足らずで、18カ国36人を受け入れてきました。このうち3人が難民認定を受け、5人が在留資格、就労許可を得て自立していきました。現在、8カ国13人の多文化・多宗教の背景を持つ人々と、4人のスタッフとともに共同生活を送っています。

今では鎌倉に難民シェルターがあると聞きつけて、多くの入居の相談が寄せられるようになってきました。また、県内外の教育機関や団体からも授業や講演の依頼、メディア取材の申し込みもいただくようになりました。平日、週末を問わず、訪問者も多く、すっかりコーヒータイムは短くなりました。

私は、1995年から東京で外国人支援活動に携わってきました。2000年頃から、公的な支援がなく、行き場のない難民の相談が増えてきました。希望をもって、やっとの思いで、たどり着いた日本で、経済的に困窮し、ホームレス状態になる難民が多くいました。「今日泊まる場所がありません」との相談に十分に応えることができませんでした。

諸外国では、当たり前のようにある、難民、難民申請者が安心して生活できる環境が必要だと、長年願ってきました。「今日泊まる場所がない」という彼らの言葉は、単に「宿がない」というだけでなく、迫害を逃れて、希望をもってたどり着いた日本で「居場所を見つけられない」という悲痛な叫びでもありました。約20年間、「難民が安全で、安心できる場所を創りたい」と願い続けてきました。その願いが、鎌倉の地で、実現しつつあります。

アルペなんみんセンターの開所以来、食事づくり、生活支援、日本語の学習支援、敷地の管理などに、地域の方々がボランティアとして40人以上が、関わって頂いています。入居者の医療に関して、2名の医師と2名の鍼灸師が毎月、医療相談、マッサージに来ていただいています。また、地域の開業医が毎週往診してくださっています。入居者と一緒に、畑仕事や裁縫、コーラス、料理づくりなどの交流をとおして、身近にいる難民の存在に気づき、友人となり、笑いも、涙も、喜びも、共に分かち合える地域の仲間だと、肌身で感じていただけるようになってきました。

昨年「難民の友に、難民と共に」という啓発ポスターを作り、鎌倉市内のすべての公立の小中学校に貼らせていただきました。このポスターには今日、ここにいるリヴィさん(仮名)がモデルとして登場しています。先日訪問した小学校では、「ポスターの人に会える!」と子どもたちが目を輝かせて待ち構え、リヴィさんを取り囲んで、母国のこと、今の暮らしやカレーの作り方など、素朴で率直な質問を投げかけてくれました。「リヴィおじさんのことをもっと知り、仲良くなりたい!」というまっすぐな子どもたちのまなざしは、リヴィさんの心を温め、また私たちスタッフも、この国の次世代をになう子どもたちに希望を見た気がいたしました。

国を追われた難民と友達、友人となり、名前で呼び合い、互いに支えあう関係づくりを地域社会で進めていく、これが私たちのミッションだと思っています。言うまでもなく、これは地域全体で取り組んでいくミッションです。

昨年7月、鎌倉市議会は「人道的見地で難民政策の見直しを求めることに関する意見書」を採択し、国に提出しました。地方議会が難民政策に対して意見書を出すのは画期的なことです。意見書の中で「迫害を受け、命の危険に直面して庇護を求める難民に対して冷たい国や社会は、全ての人にとって冷たい国や社会である」と述べ、難民認定の在り方、入管施設への無期限収容、生活に困窮する仮放免者の対応について国に改善を求めるものでした。その中で、難民と地域をつなぐ地域共生の拠点としてアルペなんみんセンターをご紹介いただきました。

意見書が出されたことがきっかけで、市民、市民団体、福祉団体、市議会など、地域の様々なステークホルダーの方々と「鎌倉なんみん共生フォーラム」を立ち上げ、難民との共生の在り方を、地域レベルで模索し、日々直面する課題、また制度的な課題について、問題意識を共有し、意見交換を行いながら、地域で難民が受け入れられるように取り組んでいます。

しかしながら、「入管行政の壁」という厳しい現実に直面しています。

まず収容の問題です。今日一緒に来ているサニーさん(仮名)は5年間にわたり、入管施設に収容されていました。現在、コロナ感染症により仮放免されるケースが増えていますが、コロナ禍が収まれば、また入管施設へ再収容され、迫害がまつ母国への強制送還に舵が切られてしまうのではないかと危惧しています。狭い入管施設に、収容の期限もなく、閉じ込められ、自由もなく、外部との連絡も制限された状態で、収容され続けています。国連、国際社会からの人権侵害だとの度重なる非難、勧告にもかかわらず、改善される姿勢はありません。収容が心身に及ぼす影響は非常に深刻です。仮放免になり、アルペに入居した後に、強い拘禁反応で冷や汗を流し、体が震え、座っていることができない男性もいました。収容中にPTSDを発症し、不眠を訴え続ける入所者もいます。

昨年、名古屋入管で亡くなられたスリランカ女性のウイシュマさんや、牛久入管で亡くなられたカメルーン男性のように、入管施設で医療を受けられなく、死亡する事件が相次いでいます。アルペなんみんセンターにも、入管施設で十分に医療が受けられない状況で、仮放免となり、内科、精神科、心療内科、整形外科、眼科等に通院している人もいます。仮放免者は、在留資格がなく、健康保険にはいることができません。公的な支援を受けることもできません。就労して自立することもできません。病院によっては、200%の医療費を請求されることもあります。

入管施設内の医療体制、仮放免者の生活支援体制を、一刻も早く改善する必要があると考えています。支援団体に繋がっていない仮放免者も多くいます。彼らの命をどう守れるか、また善意の医療関係者、医療施設だけが過剰な負担を負う現状を、どう改善するか、多くの課題があります。

生活面でも、大きな壁があります。アルペなんみんセンターは、単に住居を提供する場だけでなく「入居者が、自分の人生を歩みだす出発点となってほしい」と願い、彼らの地域での居場所づくりを模索しています。しかし、在留資格がないため、就労ができず、県をまたぐ移動も制限される等の人として尊厳ある暮らしがはばまれています。

住居の提供、食事・日用品の提供、医療の提供、生活に必要なものが提供できているアルペなんみんセンターでの生活は、安心・安全で、それ以上求めるのは、贅沢と思われるかもしれません。

「支援を受けて生きるしかない、ここでの生活は惨めだ」

「どうして、入管は私を難民として認めないのか」

「早く、ここから出て自立したい」と、入居者はその苦悩をぶつけてきます。

自分で生きる力があるにも関わらず、全てを人に依存して生きざるを得ない、今の生活は、とてもつらいことだと感じています。

そのような生活で、今までの友人との交流を絶ってしまい、自分の殻に閉じこもってしまう人もいます。難民認定、在留資格がでるめどが立たないため、将来を計画する意欲を持ち続けるのも、難しい状況にあります。アルペを支援してくださる多くの方々の温かい支えに、いつも感謝し、笑顔を見せている入居者ですが、その心の奥底に、忍耐と悲哀があるのを感じています。

多民族、多文化の生活は、日々様々な大変さもありますが、嬉しいできごともあります。

アルペの入居者第1号のコンゴ人の医師は、在留資格の変更ができ、鎌倉市内の総合病院で働いています。母国の医療支援をしたいと、自らNPOを立ち上げました。

ミャンマー出身の女性は、地域のデイサービスセンターで、昨年、ボランティア活動をはじめました。介護の勉強をもっとしたいと、介護に必要な日本語を学び、介護職員初任者研修にチャレンジ、見事合格しました。ミャンマーの政情不安を踏まえ、在留ミャンマー人に対しての緊急措置として、在留や就労を認める方針を国がうち出しました。仮放免だった彼女も特定活動6か月の在留資格とともに、週28時間の就労許可が、今年2月にだされました。在留資格が出たことで、ボランティアをしていたディサービスセンターに、正規職員として雇用され、職員住宅も提供いただき、5月にはアルペから自立していきました。しかしながら、6か月の在留資格では、携帯電話やアパートの契約ができず、法的にも不安定な状況に置かれています。定住可能な在留資格が与えられ、安定的に生活ができるように、願っています。

彼女の事例から、在留資格さえ、与えられれば、自立して尊厳のある生活への道が開かれるだけでなく、地域社会、日本社会を支える力になってくれることを私たちは実感しました。

国籍、人種、宗教などに関わらず、一人一人が与えられた命を活かす場、尊厳をもって生きられる場が、地域社会、日本社会で与えられることを願っています。

ミャンマー女性の人懐っこい笑顔、一人一人とのふれあいを大切にする姿が、今、介護の現場にあります。

また今日、ここに一緒に来ています、入管に5年も収容されていたサニーさん。嬉しそうに畑や庭を歩き「栗をとってきたよ」「柿を取りに行こう」と大好きな自然を心から楽しむ姿は私たちの喜びでもあります。

そして日本にきて20年間、難民申請を待ち続けているリヴィさん。なにもない無駄な20年だったと、よく嘆いています。アルペを訪ねる人々に自分の体験を語り「難民になるとはどういうことなのか」を、共に学ぶ機会をいただいています。

それぞれ日本で与えられた厳しい環境の中でも、人への思いやりを忘れず、生き抜いてきた大切な存在です。彼ら、彼女らのような難民申請者がどれだけ日本にいることでしょう。尊厳がないがしろにされ、自由を奪われ、声をあげることができずにいる方々の存在に気づき、難民、難民申請者の人権を守っていける社会になるよう願っています。

この度、素晴らしい賞をいただけたことは、とても嬉しいことです。この賞を通して、日本の難民が置かれている状況を多くの人々に伝える機会にしたいと思います。

神奈川県弁護士会の皆様、どうぞこれからもお力添えをいただけますようよろしくお願いいたします。

ご清聴、ありがとうございました。